石と誰かの物語5*「グリーンの絆」河 美子 作

 

 

   娘のせいが毎日クラブ活動に汗を流している。
 みんなが言うことを聞いてくれないって、時には泣きながら帰ってくる。


「でも、キャプテンが泣いては困るでしょ」


「学校では泣かないもん。誰が泣くもんですか」


 それにしてもバスケットボールとは誰に似たのか。
 主人も私も走るのは好きだったが、ボールは苦手だった。主人は陸上。私はなんと生け花クラブだった。高校の同級生だったから付き合いはもう十四年。娘は中学二年生。年齢が合わない?気にしないで。
 バスケットボールが大好きで小学校から夢中だ。身長も中の中だからバスケットには不利。それでも人一倍の負けず嫌いである。もう高校受験だから部活は卒業してほしいと思っているのだが、本人は続けるようだ。部員は同じ小学校から二人。あとは違う。その相棒が聖よりうまいと思うが実に奥ゆかしい子なのだ。


「麗ちゃんがやってくれたらいいのに。麗ちゃんは死んでも嫌だって言うから」


「でも、他の人は?」


「ほかの子たちは塾で忙しいから」


 つまり、暇そうな二年生ということなのか。母親としては変に安心してしまう。できる子ならみんなの羨望のまなざしや妬みが出て大変になるのだろうが、そんなことには縁がなさそうだ。しかも、いつも大会では初戦で負ける。
 今度の地区の大会でどうしても一回戦突破したいと朝練を増やしたいと提案したらしい。だが、みんなは塾が夜にあるから週に三日以上は無理ということのようだ。
「だって、あんなに悔しがっていたから、練習を増やすのは当たり前でしょう」


「うーん、そうとは言えないかも」

 

 娘は聞いてないみたいですぐに言葉を続ける。

 

「でも練習増やすしかないよね」

 

「麗ちゃんはなんて言ってるの?」


「麗ちゃんは私の言う通りに練習するって」


「だったらみんな反対じゃなくて、二人はやるってことでしょう」


「うん、一年も」


「それならいいじゃないの。二人でもやったら?」


「それじゃ一年に示しがつかない」


「どうして」
「キャプテンの言うことを聞かないなんて」


 一応、聖にもプライドがあるようだ。でも、高校受験も大切なことだし、塾で疲れていることも分かる。


「キャプテンなんてやりたくなかったのに」


「うんうん」


「何がうんうんよ。何にもわかんないくせに」


 こちらにも八つ当たりをしてバタンバタンと音をさせて部屋に戻って行った。
 部屋で壁にボールを当てているのか家が揺らぐような音だ。


「聖、やめて。外でやって」


 下から怒鳴る。
 一人っ子だから姉や妹と話すこともない。母に愚痴っても仕方ないのだろう。
 こちらまで気が滅入ってくる。


「ただいま」


「あら、お帰りなさい」


「電気も付けないで暗いぞ」


 夫が帰ってきたことも気づかなかった。


「聖が悩んでるのよ」


 娘の話を聞いてから、夫は書斎の引き出しから箱を持ってきた。そして、それを持って聖の部屋に上がって行った。


「聖、いいかい」


 聖は素っ気なく何よといいながらドアを開ける。
 それから三十分ほどして夫が降りてきた。


「話したの?」


「ああ、腹減ったよ」


 早速シチューを温め、サラダを冷蔵庫から出す。二人がどんな話をしたのか気になるが、聖がやってきて私に見せた。


「パパにもらった」


 手にはグリーンアパタイトがついたミサンガ。


「わ、懐かしい」


「ママのプレゼントだったんだって?」


「うん。高校の大会の時にリレーの練習がうまくいかないってパパが悩んでいてね。その時にこのアパタイトが絆を深めるって聞いてね。それをミサンガにして渡したの」


「へえ、そうだったの」


「パパはなんて言ってた?」


「魔女がくれたお守りって。でもこれが効いてリレーは上手くいったって」


「そうよ、いつもビリだったのに三位になったのよ」


 聖は嬉しそうに手を上げる。


「がんばろうっと」


 これが解決してくれるかどうかはわからないけど、親子の絆は深まったのね。
 色が少し薄くなったけど、アパタイトのミサンガを箱に入れてまだ持っていたなんて。夫の優しさに心が温まる。

 


「あなた、今日はワインを飲みましょうか」

 

 

 

作: 河  美子

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